平成16年度 教育行政方針

刈谷市教育委員会


 3月市議会定例会の開会にあたり、教育委員会の教育行政方針を述べる機会が与えられましたことに心から感謝を申し上げます。

 新しい時代を切り拓く、心豊かでたくましい日本人の育成を目指し、「画一と受身から自立と創造へ」という基本理念の下に教育改革が進められております。新しい学習指導要領が全面実施されてから2年が過ぎようとする中で、各学校では特色ある教育活動を積極的に展開しております。子どもたち一人一人に新世紀を生きぬく力を育むためには、「確かな学力」と「豊かな心」を育み、「信頼される学校づくり」を進めることが極めて大切であり、この教育改革の大きな柱であると考えます。新年度におきましては、教育における不易なるものを大切にしつつ、新たな時代に対応した教育行政を進めていく所存であります。特に、「確かな学力」と「豊かな心」を育み、「信頼される学校づくり」の推進と市民の皆様が生きがいをもつことのできる生涯学習のまちづくりの2点を重点に関係施策の推進に努めてまいります。


第一点目は、学校教育の充実についてであります。

 21世紀を担う子どもたちが、心豊かで、たくましく生きる力を身につけることができるように、以下の6点について一層の充実と推進を図ってまいります。

第1は、基礎・基本の定着と学力の向上であります。

 新学習指導要領のねらいは、子どもたちに基礎・基本を徹底し、個性を伸ばすことにより、知識・技能に加えて、学ぶ意欲や思考力・判断力等を含めた幅広い「確かな学力」を育むことにあります。各学校はそれぞれの方針に基づき、創意工夫に満ちた柔軟かつ多様な指導に取り組み、個別指導やグループ別指導、少人数授業など、個に応じたきめ細かな指導を一層進めるとともに、学ぶ意欲の向上、基礎・基本の確実な定着に努めてまいります。また、同時に、観察・実験、調査・研究、発表・討論などの体験的・問題解決的な学習にも積極的に取り組ませ、これらの学習を通して、思考力や判断力、表現力を育成するよう指導してまいります。

 学力低下が心配されておりますが、各学校においては、授業時間の確保に努めるとともに、「わかる授業」や「楽しい授業」を工夫した実践を積み重ねているところであります。具体的には、「少人数指導」、「反復練習するドリルタイム」、「補充・発展学習」などの時間を設けて、個に応じたきめ細かな指導を充実させてまいります。

 また、「総合的な学習の時間」においては、各教科等で学んだ知識や技能を生かし、体験的な活動を通して理解を深め、実生活に活用することのできる力の育成をめざしております。各学校ごとに創意工夫した取り組みが展開されておりますが、指導目標・内容の系統性や発展性、各教科との関連、評価の在り方等学校全体としての計画を見直し、一人一人の学習が学びのあるものとなるよう指導してまいります。

 「子どもたちがよく分かるようになった」、「授業に集中するようになった」、「学習への興味・関心が深まった」などと、成果をあげている少人数授業につきましては、「市単独の少人数授業のための加配教員」を新年度はさらに増員をして、一層の充実を図ってまいります。

 また、少人数学級については、県の方針を受け、県からの加配教員により小学校第1学年において35人学級を実施してまいります。

 新年度には、新たに学識経験者や保護者代表も含めた「小中学校教育課程に係る研究協議会」を設置して、今日的な教育課題に関する研究を進めてまいります。


第2は、「心の教育」の充実であります。

 「豊かな心」の育成に関しては、基本的な規範意識と倫理観、公共心、他者を思いやる心や協調性などを育むことが重要であります。このため、道徳教育の充実、多様なものの見方や考え方を育てる読書指導、本物にふれる感動体験、心の相談活動、障害のある方々との交流活動などを通して、子どもたちに「豊かな心」を育んでまいります。

 子どもの心は、人と人との直接のふれあいによって、心に揺さぶりをかけられたり影響を受けたりしながら育っていきます。子どもの心の中に確かな人権意識を育んでいきたいと考えており、新年度は、市内の全小中学校で組織する「人権教育研究会」を立ち上げ、人権教育に関する研究と実践に取り組んでまいります。

 小中学校においては、幼児や高齢者等とのふれあい活動、保護者や生徒向けの各種講演会、地域の奉仕活動への参加などを充実してまいります。同時に、子どもたちが心を広く開き、自らを高めることのできる場となる作品展示の「刈谷っ子ギャラリー」、「小中学校音楽会」、「スクールコンサート」、「演劇や音楽鑑賞会」などの活動もさらに充実させ、美しいもの、純粋なもの、崇高なものにふれ、感動できる感性を身につけた心豊かな子どもたちを育てていきたいと考えております。

 また、「心の教室相談員」の全中学校への配置、「養護教諭補助員」の全小学校への配置を継続し、子どもたちの心身の健康づくりに努めるとともに、北部・中部・南部の3つの適応指導教室で、不登校の子どもたちや保護者の悩みや不安に対応する相談と指導を充実してまいります。

 さらに、不登校の子どもたちに寄り添い一緒にかかわってくれる大学生のボランティアを活用した心の友派遣事業を導入し、お兄さんやお姉さんと共に交流を深め、人とのかかわり方を豊かにするよう支援をしてまいります。


第3は、創意ある学校づくりの推進であります。

 各学校・幼稚園が保護者や地域の方々の協力を得て、地域の伝統文化を学んだり、一芸に秀でた人の生き様にふれたり、自然や環境問題を追究したりするなど、それぞれ多様な活動を進め、創意ある学校づくりを推進しております。とりわけ環境教育の一環として、自然のをメインテーマとして開催される「愛知万博」を通して、環境問題についての学習を深める機会としていきたいと考えております。

 また、急速に進む国際化の中で、子どもたちに日本人としての自覚を持たせ、異文化を理解し尊重するといった姿勢を早い時期から身につけさせるために、国際理解教育の充実にも努めております。その一環としての小学校の英語活動は、会話を中心とした活動を進めており、外国人講師2名が全小学校を巡回指導しております。

 さらに、「開かれた学校」づくりを推進するために、各学校の主体性を尊重しながら、学校評議員制度の活用を進めております。既に12校の小中学校で導入しておりますが、これを全小中学校に広め、地域の方々の建設的なご意見を学校運営に反映させ、各学校が、より一層地域と一体となった教育活動を進めるように指導をしてまいります。


第4は、幼稚園教育の充実であります。

 幼児期からの心の教育や基本的な生活習慣の育成は大変重要であり、当たり前のことが当たり前にできるように、一人一人の発達に合わせて指導をしていく必要があります。そのために、幼稚園と家庭の連携を密にしてまいります。幼稚園教育では、集団生活の中で仲間や教員とのふれあいを通して、望ましい習慣や態度などの基礎的なことがらを身につけさせてまいります。仲間との遊びの中で、幼児の知的発達を促すとともに、友達とのかかわり方、協調・協力する心、コミュニケーション能力などを育むように努めてまいります。また、飼育や栽培活動、園外保育などの自然・社会体験活動をより重視し、自然の不思議さや素晴らしさに気づかせたり、美しいものに感動する心や思いやりの心など、豊かな感性と心を育んでまいります。

 今年度は、朝日幼稚園が開園となり、全小学校区に幼稚園が設置されました。幼稚園と小学校との連携を一層深めるとともに、幼稚園・保育園・小学校の連携のあり方も研究してまいります。各幼稚園が、地域の幼児教育センター的な役割を果たすよう各幼稚園に子育て支援補助員を配置したり、「ほのぼのルーム」を充実したりして、子育てに悩みをもつ保護者の相談に応じてまいります。

 また、出産や病気等で入通院、また、親族の看護や介護等で保育終了後も、もう少し長く預かって欲しいという方を対象にした預かり保育を試行的に実施し、子育て支援を進めてまいります。


第5は、家庭及び地域社会の教育力の向上と連携の強化であります。

 子どもたちが、自らの目標や夢に向かって毎日を生き生きと過ごすためには、学校や幼稚園の教育だけで対応できるものではなく、家庭及び地域社会の教育力に負うところが大きいと考えております。特に、子どもの健全な成長と豊かな人間関係の構築のために、学校、家庭及び地域社会がそれぞれの特質を生かした適切な役割分担をしつつ、様々な形で連携・協力をしあうことが大切だと考えます。

 まず、家庭は、「子どもを育てる上での教育の原点」であり、「人間としての最初の教師は、母であり親である。」と言われております。子どもたちにとって最も必要なことは、家族の温かい愛情や精神的な支えであり、信頼に基づいた優しく厳しい親と子のふれあいでありますので、家庭教育の充実に向けた指導と支援を各学校や幼稚園で進めてまいります。

 次に、地域社会においては、異なる年齢の子どもたち同士の遊びや活動、地域の文化や伝統に触れる行事などに積極的に関わらせることができます。そして、そこに住む人々が子どもたちにあいさつや声がけをするなど、地域全体で温かく見守り育てることが大切だと思います。こうした多くの人とかかわり合う体験を通して人間関係が広がり、子どもたちの健全な成長が期待できます。

 中学校におきましては、部活動への支援、様々な講座の講師、小学校におきましては、英語ボランティアや図書館環境美化活動、ブックトーク、遊び塾の講師など、また、幼稚園におきましては、読み聞かせや絵本づくり、万華鏡づくりなど、いろいろな場面で「地域の方々が先生」として授業や各種活動に参加してくださり、地域の教育力としての成果を上げていただいております。

 新年度は、このような活動を紹介した学校だよりを地区に回覧したり、各学校のホームページをより充実したりするなど、家庭・地域への情報発信をさらに進め、学校・幼稚園、家庭、地域社会との連携を強化するよう一層工夫をしてまいります。


第6は、教育環境の整備であります。

 子どもたちにとって、学校は学びの場でありますが、楽しく過ごす生活の場でもあります。安全で、しかも楽しく生活できる豊かな環境にするために、引き続き校舎・園舎の改修、備品・教材の整備や情報教育の充実などに努めてまいります。

 刈谷市が平成14年4月に東海地震の地域防災対策強化地域に指定されたことに伴い、昭和56年以前に建設した学校・幼稚園の建物の耐震性能の診断と校舎及び体育館の耐震補強設計を行ってきましたが、今後も教育施設並びに地域の防災施設として環境の整備に努めてまいります。

 新年度の主な整備といたしましては、東刈谷小学校、富士松南小学校における耐震向上を図る校舎耐震補強工事や小高原小学校はじめ6小学校及び刈谷東中学校はじめ2中学校の体育館耐震補強工事を行います。また、快適で安心できる幼児教育環境の確保のため、小垣江幼稚園の全面改築工事を行います。

 学校・幼稚園給食は、成長期にある子どもたちの心身の健全な発達のために、バランスのとれた栄養豊かな食事を提供することにより、健康の増進、体位の向上、望ましい食習慣や人間関係を育てるなど多様な役割を果たしております。新年度も献立を工夫し、おいしくバランスのとれた給食を提供するとともに衛生管理の徹底に努めてまいります。また、

 給食業務に万全を期すため、第二学校給食センターの建て替えに向けた基本計画策定業務を推進してまいります。


第二点目は、生きがいを育む生涯学習のまちづくりであります。

 生涯学習による「まちづくり」は、市民の皆様がいつでも学び、自らを高め、生きがいを持って生活ができる魅力のある社会をつくることであります。そのためには、多様な学習機会の提供や、そのための情報提供手段の整備をはじめ、学習活動や文化活動など各種事業の開催や活動を支援してまいります。また、平成7年3月に策定いたしました刈谷市生涯学習推進計画が平成17年3月に満了となりますので、新たな推進計画の策定を行ってまいります。


第1は、生涯学習の情報提供手段の整備であります。

 市民の幅広い学習活動に対して、各種情報を提供するネットワーク化の推進を図っていく必要があります。昨年度南部生涯学習センターに整備いたしました「エル・ネット」により、通信衛星を通して発信される「オープンカレッジ」、「子ども放送局」等の情報を提供し、生涯学習の機会をさらに広げてまいります。

 また、市民講座の一環として引き続き、南部生涯学習センターや社会教育センター、富士松市民センターで「パソコン講座」を開設し、基本操作や文書の作成、インターネット、電子メールなどの基礎的な技術を学んでいただき、市民への普及を進めます。

 さらに、「公共施設予約案内システム」の充実、各種講座、教室、イベント等を掲載した「生涯学習情報誌よかよかガイド」の作成や生涯学習番組である「いきいきまなびすとウォッチング」を3本制作し、放映してまいります。


第2は、生涯学習施設の拠点施設の整備であります。

 生涯学習施設は、市民の学習機会や情報交換の場であります。南部生涯学習センター、社会教育センターをはじめとした市民センターの一層の活用を図るとともに、地区の皆様に密着した生涯学習の拠点である市民館は、公民館活動の場として、高齢者、障害者を問わず、世代を越えた利用しやすい施設を目指し、整備を図ってまいります。

 また、市民休暇村「サンモリーユ下條」は、年間1万人余の皆様にご利用いただいております。市民の皆様が気軽にご利用いただけるよう「バスツアー」も引き続き実施するとともに、魅力あるイベントを企画し、愛される休暇村を目指します。


第3は、芸術文化の普及と振興であります。

 心の豊さが求められる時代にあって、市民の文化活動への欲求は年々高まってきております。このような皆様の多様な学習機会のニーズに応えるため、各種の事業を実施してまいります。

 まず、伝統文化や文化財の保存・継承でありますが、貴重な文化遺産がより広く、より深くご理解いただけるよう保護と整備に努めてまいります。特に「歴史の小径」の案内板整備は、平成11年度から始まり8コースが整備され、新年度は「城下町周辺コース」の整備を進めてまいります。また、中条遺跡の調査は、平成9年度から12年度までの4年間で発掘調査を終了し、平成13年度からは、その成果をまとめる整理作業に移行してまいりましたが、新年度も引き続き出土遺物の復元、実測作業などを進めてまいります。

 次に、図書館では中央図書館、城町図書館、富士松図書館の各館を相互に巡回しています「図書配送システム」を平成13年度から各市民センターまで拡充いたしました。今後とも、このシステムを活用し、利用者へのより一層の便宜を図ってまいります。

 また、新年度より新しい図書館電算システムを稼動し、インターネットによる図書検索や図書案内サービスを提供してまいります。

 さらに、次世代を担う子どもたちに残せる童話を、「森三郎童話賞」として全国募集を行い、あわせて、郷土の文化人「森三郎」を称えると同時に、刈谷市を全国へPRしてまいります。

 市民会館は、会議、コンサートなど幅広く利用され市民の皆様に親しまれております。アイリスホールでは、優れた芸術の発表や文化団体、グループなどに活動発表の場を提供するとともに、自主事業として「南こうせつコンサート」をはじめ有料7事業、無料5事業を実施し、市民文化の向上に努めてまいります。

 美術館では、企画展の開催及び美術作品の収集・保存・展示によって、地域市民に美術作品に触れる機会を提供するとともに、参加・体験型の美術教育普及事業をおこなってまいります。また、併せて市民ギャラリーとしての貸館事業も行ってまいります。

 主な企画展として、春にはチェコのアニメの巨匠のひとりであるイジー・トゥルンカの絵本原画、人形、映像などを紹介する「イジー・トゥルンカ展」を、秋には日本近現代の絵画において、季節を代表する花々が描かれた作品により、四季の移ろいと日本の美意識をみつめる「花物語−かぐわしき四季の香り展」を開催し、市民に美術の普及と啓発を図り、地域の文化の高揚に努めてまいります。


第4は、スポーツの普及振興と施設整備であります。

 市民の皆様が、いつでも、どこでも、気軽にスポーツを楽しむことができるようスポーツ教室の開催、かきつばたマラソン大会等各種市民スポーツ大会の実施、レクリエーション活動の推進、スポーツ指導者の養成等多様な事業を行い、生涯スポーツの普及を図るとともに、競技団体が開催するスポーツ大会及び各種競技大会への参加に助成を行い、競技スポーツの振興も図ってまいります。

 さらに、地域スポーツの拠点として、6中学校区に総合型地域スポーツクラブを設立するため、各地区の設立準備委員会において具体的な諸準備を進め、新年度は2地区での設立を目指してまいります。

 また、刈谷市体育館、刈谷球場、洲原温水プール、各グラウンド、学校開放体育施設は、適正な管理と各種整備補修事業を実施して、施設の充実と利用促進に努めてまいります。


 最後になりましたが、教育行政に対する市民の皆様の大きな期待を真摯に受け止め、議員各位並びに市民の皆様のご理解とご協力のもと、全力で取り組んでまいる所存でありますので、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。